ゆらり、と空が歪む。
滲んだ空の色から光が零れ、次の瞬間その場所には4人の人間と小さな生き物がいた。
「次の世界に、と〜ちゃく!」
明るい声で告げるモコナを手の平に乗せた小狼は、きょろきょろと辺りを見回した。
「今度はどんな世界なんでしょうか?」
「楽しいとこだといいねぇ」
間延びした声で答えるファイに、サクラが笑って頷く。
「モコナ、姫の羽の気配は?」
真剣な瞳で尋ねる小狼にモコナはう〜ん、と唸ってから、眉を下げて答えた。
「わからない。なんだかとっても冷たい力がここを覆ってるみたい」
「冷たい力?」
聞き返す小狼に、モコナは頷く。
「ん〜結界の一種みたいだけど……。確かに、変な感じがするねぇ」
呟くファイに、黒鋼は眉を寄せる。
元来魔術師のファイはこういうことに詳しい。
その彼と魔法生物であるモコナが言うのだ。
やっかいなことになりそうだ、と黒鋼は息を吐く。
「黒さま、そんなに眉間に皺よせてると、とれなくなっちゃうよ〜」
「うるせぇ」
ファイの能天気な声に一睨みして、黒鋼はその町を見渡した。
そこはまるで城塞都市のようだった。
黒鋼たちが降り立ったのは町の中でも小高くなっている場所だったので、見渡すと町を囲う城壁を遠くに
みることができる。
ぐるりと町を一周する城壁は、しかしあまり高さはないように思えた。
「とりあえずは宿だな」
黒鋼の意見に反論する者はなく、四人と一匹は町の中央部へと足を進める。
モコナたちが降り立った場所からそれ程遠くないその場所は、しかし都心と言うにはいささか
活気に欠けていた。
店頭に並ぶ品物の数は豊富で、一見豊かな国のようだが、民の様子はどこか暗い。
小狼たちが首を傾げていると、一人の男が声をかけてきた。
「お前たち、この国に最近入ってきたのかい?」
全てを諦めたようなその男は、抑揚のない声で問う。
ファイが人好きのする笑顔で答えた。
「はい〜。ついさっき入ったばかりなんですよ〜」
その言葉を聞き、男は憐れむような眼差しをファイたちに向け、そうか、と頷く。
「今度は俺から質問してもいいですか〜?なんかこの国の人たち随分暗いように感じるんですけど、
なにかあったんですかぁ?」
ファイの質問に、男は自嘲の笑みを零して呟いた。
「何もないさ。ただ……皆ここから出たくても、出れないだけだ」

「あれ、どういう意味なんだろうねぇ」
男と別れた後、ファイが意味深な彼の台詞を指して言う。
小狼も気にかかるのか、難しい顔をしていた。
「出たくても、出られない……モコナが言っていた『冷たい力』と何か関係があるんでしょうか?」
小狼の言葉にファイが「おそらくね〜」と、少し困った笑顔で答える。
町を覆う冷たい力。
まずはそれをつきとめなくては、前に進むことができない。
とりあえず宿を探して情報収集を、と言いかけた小狼は、目の前の曲がり角から突然現れた影とぶつかり、
尻餅をついた。
「小狼君、大丈夫!?」
サクラが驚いて差し出した手を借り、立ち上がった小狼は、ぶつかってきた者の姿を見て、目を見開いた。