「山本ってさ、ひまわりみたいだよね」
突然そんなことを言われた山本は、飲みかけの牛乳パックから口を離した。
『ひまわりと太陽』
昼休み、暖かな日差しの中で昼食を口に運びながら、ツナはふと思い出したようにそう言った。
今日は獄寺がダイナマイトの仕入れのためにイタリアへ戻っているので、屋上にはツナと山本の姿しかない。
一人で納得し卵焼きを口に運ぶツナの隣で、山本はぱちぱちと瞬きをした。
「そうか?」
首を傾げる山本を見上げ、ツナは頷いた。
どうしていきなりそんなことを、という疑問が顔に出ていたのか、ツナが苦笑しながら説明を加える。
「いや、ね、山本昨日母さんに会っただろ?」
「あぁ、商店街で会ったぜ?」
店の手伝いの帰りに出会ったツナの母親とは、挨拶を交わしてそのまま別れた記憶がある。
それがどうかしたのか、と問う山本の瞳に、ツナは続けた。
「母さんが、『山本君ってひまわりみたいね』って言ってたんだ」
「そうかぁ?」
山本は首を傾けるが、ツナはこくりと頷きを返す。
「俺のどこがひまわりに似てるんだ?」
特に心当たりのない山本は、好奇心でツナに尋ねた。
ツナは弁当を食べる箸を止め、うーん、と考え込む。
「そうだなぁ……背が高い所とか、いつも元気な所とか……あ、あと山本って夏っぽいよね」
「なんだよ、それ」
そんなツナの言葉に山本が笑うと、ツナも目を細めた。
「それと、その笑顔かな」
「ん?」
再びストローをくわえた山本に、ツナは笑みを含んだ声で言う。
「山本が笑うとさ、周りが明るくなる気がするんだ。しっかり前を向いて、とても大きくて強くて、
見てるこっちまで元気になれる……うん、やっぱり山本はひまわりに似てるよ」
はは、と笑うツナを、山本はどこか眩しい思いで見つめていた。
そんなことは、ないんだ。
ツナはそう言うけれど、俺はそんなに強くはない。
いつもいつも、俺はツナに守られている。
その大きな心に。
その優しい温かさに。
その、大切な笑顔に。
「……じゃあツナは、太陽だな」
「へ?」
山本の言葉に、ツナは間の抜けた声を出す。
そんなツナの様子に山本は笑った。
彼がひまわりのようだと言う、その笑顔で。
「うん、ツナは太陽に似てるのな」
「それこそ、どこが似てるんだよ」
可笑しそうに笑うツナに、山本は笑みを深くした。
君が笑うと、世界が光に包まれるようで。
君が笑うと、全てが優しく感じられて。
君が笑うと、ここはこんなにも温かい。
その光で全てを包み、全てを守る太陽は、とても彼に似ている。
「でも俺は、守られっぱなしにはならないぜ」
山本の小さな呟きは風に紛れ、隣のツナには届かない。
「え?山本、何か言った?」
「いや?」
山本はそう笑って、ツナの髪をかきまわした。
守ろう。
君のことを、君の笑顔を、君の全てを。
その為に、もっともっと強くなる。
ずっと傍にいたいと、そう願っているから。
「もう、山本!弁当食べられないだろ!」
山本を上目づかいになって見上げながら、ツナは静止の声をあげる。
しかしその声はほとんど笑っていたから、山本は構わずにその頭をなで続けた。
「はは、悪い悪い」
「って言いながら、手止まってないじゃん」
ツナが本当に楽しそうに笑う。
その笑顔に、山本はニッと笑った。
(……俺は、ひまわりみたいになるのは嫌だな)
他愛もないやり取りを繰り返しながら、山本はふとそう思った。
ひまわりは、ただ太陽を追いかけるだけ。
決して太陽に触れることは、できないのだから。