『拝啓 ボンゴレ十代目様
麗春の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
日頃は格別のお引き立てをいただき、ありがたく御礼申し上げます。
本日は四月六日に予定されている我がファミリーのパーティーへ招待したく、
手紙を送らせて頂いた次第です。
是非いらっしゃることを楽しみにしております。
ではご健康とご活躍を祈ります。

Ps.日本語の練習で手本通りに書いたんだが、あってるか?
キャバッローネ ディーノ』

『護衛は誰!?』

白地の便箋に書かれた文字を読み、綱吉は小さく苦笑した。
「どうかしましたか?沢田殿」
傍で書類を揃えていたバジルが首を傾げる。
そんな彼に、綱吉は便箋を差し出した。
「いやね、ディーノさんからパーティーの招待状が届いたんだけど……」
並んだ文字を読み、バジルも笑みを零す。
「随分と、らしくない文面ですね」
いつもなら、『パーティーやるから、暇があるなら遊びに来いよ』という軽い言葉と、
他愛ない現状報告が書かれているのに。
「最近、日本文化も勉強してるらしいよ」
綱吉が楽しそうに言った。
「で、沢田殿はどうなさるのですか?」
「うん、行こうと思ってる。今のところ急ぎの用事も、不穏な感じもないからね」
答える綱吉に、バジルは「では」と続ける。
「護衛の任はどなたに?」
綱吉はカツカツ、と手に持った万年筆で軽く机を叩く。
左腕で頬杖をつきながらのその姿は、彼が考え事をしている証だ。
リボーンは今長期任務で出ているが、もうそろそろ終わりだろう。
そんなことを考えながら、綱吉は前に立つバジルを見上げた。
「リボーンに連絡取ってみるよ。たぶん合流して一緒に行くことになると思う。
場所はディーノさんの所だから、護衛は一人で大丈夫だと思うけど」
「そうですね。リボーン殿もご一緒ならば……」
「問題は、誰と行くかだよね」
綱吉は頭の中で、自分の守護者達の予定を思い出す。
記憶が正しければ、了平さんと骸とランボが任務にあたっているだけで、他の皆は
屋敷警備もとい、自分の護衛だったはずだ。
そう思い当った時だった。
「十代目!」
「うわぁ!」
勢いよく開け放たれた扉の向こうにいたのは、獄寺だった。
「お話は伺いました。あの跳ね馬のトコに行くんなら、俺が貴方を護衛いたします!」
「ご、獄寺君……」
どうしてこの分厚い扉の向こうで、話し声が聞こえていたのだろう。
頭にふと過ぎった疑問を、綱吉は飲み込む。
「ずり〜ぞ獄寺。なぁ、俺が護衛になるぜ?ツナ」
獄寺の背後から山本が顔をだした。
いつも通り、にっと笑っている山本に、綱吉も笑みを返す。
「見回り御苦労さま。その様子じゃ、何もなかったみたいだね」
「あぁ。それより骸の奴、こっちに帰ってきてたのな」
「え?」
先日、他マフィアとの情報交換(という名の腹の探り合い)のためこの国を離れた仲間の名前に、
綱吉は首を傾げる。
バジルの方へ視線を送るが、彼も訝しげに眉を寄せていた。
「こちらには、何の連絡も……」
「何で?山本」
尋ねる綱吉に、彼は「だってさ」と言いながら、綱吉の背後にある窓を指さす。
振り返った綱吉は、視界に入ったその光景に思わず叫んだ。
「ぎゃぁ〜!!む、むむむ骸!?お前なにしてんだよ!!?」
窓には、ピタリと張り付いた骸の姿があった。
彼はこつこつ、と足先で窓を叩く。
綱吉が慌てて鍵を開けると、彼は何事もなかったかのように部屋の中に入ってきた。
「ふぅ……お久しぶりです、沢田綱吉」
「あ、お久しぶり。御苦労さま……じゃなくて!
なにしてんだよ!?普通にドアから入ってこいよ!!」
叫ぶ綱吉に、骸はさらりと答える。
「いえ、予想以上に仕事が早く終わったものですから」
それとこれとどう関係しているのだろうか。
そうは思ったが、綱吉もそろそろ疲れてきたのでそれ以上はつっこまないことにした。
早く護衛を決めてしまおう。そう決意した綱吉は早速口を開く。
「あ、あのさ」
しかし、その言葉は突然のノック音に遮られた。
返事を待たずに開けられたその先には、肩に小鳥を乗せた雲雀が立っている。
「綱吉、この前言ってた件なんだけど……ワォ、何この群れ?」
「雲雀さん……」
少し驚いた綱吉だったが、今屋敷にいる守護者はこれで全員だ。
屋敷を開けることも説明しなくてはならないから丁度いい。
そう考えた綱吉は、彼らにディーノのパーティーについて話をする。
ついでに、護衛のことも。
「というわけなんだ」
綱吉の言葉にいち早く反応したのは、最初からこの話を知っていた獄寺と山本だった。
「ですから、是非俺をお供に!」
「俺と一緒に行こうぜ?」
台詞は見事に被っていた。
その様子に骸は口元に笑みをのせる。
「クフフ、護衛ならば戦闘力の面から言っても、僕が適任ですよ」
「何馬鹿なこと言ってるの?君たちはここで群れてたらいい。
護衛なら僕が行ってあげるよ」
その後は皆わいわいと思い思いのことを叫んでいる。
おろおろと見守るバジルの視線の先では、既に全員が己の武器に手を伸ばしていた。
「こうなりゃ誰が一番強いかはっきりさせようぜ」
「それいいな。勝ったやつが護衛な」
「クフフ、面白いですね。僕に勝つ気でいるとは……」
「かみ殺す」
獄寺たちが武器を構えた時を見計らって机を強く叩く音が響く。
全員の視線が注がれる中、音の原因である綱吉は満面の笑みを浮かべて言った。
「味方同士の戦闘、及び屋敷内での乱闘は禁止、って俺前に言ったよね?」
全く笑っていないその瞳に、守護者四人はこくこく、と頷き武器をしまう。
「全く君たちは……」
呆れたように溜息をつく綱吉に獄寺を筆頭として、全員が謝罪を述べる。
「平和的にじゃんけんとかで決めなよ」
「はい!十代目がそう仰るなら!!」
獄寺たちは直ちに、部屋の隅で円をつくる。
綱吉には彼らの勝負は見えないが、「後出しだ」とか「さっきのはチョキかパーか
わからねぇ!」とかと聞こえてくるので、随分白熱しているようだ。
しかし誰かが勝つごとに他の三人から文句が出ているようで、一向に決着がつかない。
車をまわしてくれるように、バジルに頼んだ綱吉は、小さくため息をつく。
「ほんと、何時になったら決まるんだろうね?ザンザス」
振り向きもせずに放たれた言葉に、綱吉の背後に立っていたザンザスは、気配を消すのを止めた。
「気づいてたのか」
「うん。気配絶って後ろに近付かないでって、いつも言ってるのに……」
間違って攻撃でもしたら、どうするのだろう。
綱吉は彼の手から書類の束を受取りながら、困ったように眉を寄せた。
「で、あれはなんだ?」
ザンザスが円になった獄寺たちを親指で示す。
綱吉は乾いた笑いを洩らした。
「はは……ま、色々あって……」
そこまで言って、綱吉の頭に良いアイデアが浮かんだ。
綱吉は椅子を斜めに回して、ザンザスの顔を見上げる。
「ザンザス、確かこの後しばらく仕事なかったよな?」
「お前がまわさなきゃな」
「なら、頼んでいい?」
「仕事か」
頷く綱吉に、ザンザスは大きく息を吐く。
また大した仕事じゃないのだろう。
どこの世界に暗殺部隊へ書類整理やら身辺警護の任務を申し渡すボスがいるのだろうか。
……ここにいるか。
しかし不安気な綱吉の瞳を見て、ザンザスは仕方ないとばかりに頭をかく。
どんな仕事でも、彼の役にたてるなら嬉しい、そう言ったのは自分の隊の誰だったろう。
それはおそらくボンゴレの下っ端も、向こうで火花を散らしている守護者たちも、
彼に仕えるものは皆そうなのだろう。
自分も含めて。
ザンザスは自分のらしくない思考に区切りをつけ、見上げてくる瞳に答える。
「で、なんだ?」
「俺をディーノさんの屋敷まで護衛して欲しい」
あぁ、だからあっちでじゃんけんというバトルというわけか。
納得がいったように獄寺たちを見遣ったザンザスは、口の端を上げた。
「いいぜ。お前の護衛引き受けてやるよ、ボス」「ありがとう、ザンザス!空港寄る前にヴァリアーの基地に寄ってもらうよ。
バジル君が車用意してくれてるはずだから」
「あぁ」
綱吉はそう言い席を立とうとしたが、何かに気づいたように動きを止める。
そして手元のメモ用紙にさらさらと言葉を書いて、これでよしと頷いた。
扉へ向かう綱吉の後を追うザンザスは、勝負に熱中して全く気付いていない守護者を一瞥し、小さく呟く。
「はっ、わりぃな」
そして二人は、じゃんけんの掛け声が続く部屋を後にした。
「よっしゃー!俺の勝ちだ!!」
執務室に獄寺の声が響いたのは、二人が部屋を出て十五分程経った頃だった。
彼以外は打ちひしがれた様子で自らの右手を見つめている。
「十代目!護衛は俺…が……」
しかし獄寺の視線の先に、綱吉の姿はなかった。
あわてて机に駆け寄った四人は、重石で押さえられたメモを見つける。
『みんなへ
ごめん、飛行機の時間に間に合わなくなりそうなので、行きます。
護衛にはザンザスが来てくれることになったので心配しないで下さい。
俺がいない間、こっちは頼みます。
沢田綱吉』
「ザ、ザンザスの野郎……」
拳を握り締める四人の耳には、高らかなザンザスの勝者の笑い声が幻聴として聞こえた。